4回目の施術からおよそ1か月。
大学生活にも少し余裕が出てきて、最近は授業の合間にストレッチをするのが日課になっていた。
肩こりも前よりずっと楽で、姿勢を意識することが自然になってきた。
けれど、テスト期間が近づくと、気づかぬうちにまた体がこわばっていく。
「そろそろまた整えてもらおうかな」
そう思い立ち、スマホを開いておなじみのセラピストにメッセージを送った。
「お久しぶりです。最近、夜になると少し体が重く感じて…」
「お久しぶりです。メンテナンスのタイミングですね。
今回は、全身のバランスを整えるリラクゼーション中心のコースにしましょう。」
その返信を見て、自然と気持ちがゆるんだ。
“治すための施術”から、“整えるための時間”へ。
そんな風に、心の在り方も少しずつ変わっていた。
心までリセットされる“メンテナンスの日”
施術の日は、週末の夜。
一日の予定を終えて、部屋を片づけ、明かりを少し落とす。
ドアのチャイムが鳴き、セラピストが静かに入ってくる。
「こんばんは。お身体の調子はいかがですか?」
「だいぶ軽いんですけど、最近少し背中が張るようで…」
「季節の変わり目は自律神経が乱れやすいので、今日は呼吸を整えながら緩めていきましょうね。」
マットにうつ伏せになると、ゆっくりとオイルの香りが広がった。
ラベンダーとシダーウッドのブレンド。
深呼吸をするたびに、心が静かになっていく。
背中から広がる“呼吸のリズム”
セラピストの手が背中をなでるように滑る。
肩から腰へ、腰から脚へ。
呼吸のリズムに合わせて、ゆっくりと圧が入っていく。
「呼吸が浅くなると、筋肉も固まりやすくなるんですよ。」
「たしかに、テスト勉強のときは息を止めてた気がします。」
「無意識のうちに力が入るんですよね。
今日は“力を抜く練習”だと思って、ゆっくりしてみてください。」
その言葉に促され、彩香は自然と目を閉じた。
手の温かさと音楽のリズムに包まれながら、
意識がふわっと遠のいていく。
まるで時間が止まったような静けさ。
ただ、呼吸と自分の心臓の鼓動だけが響いていた。
“整う”という感覚を知る
施術が終わるころには、全身が軽くなっていた。
体の芯がまっすぐに整い、姿勢を正しても疲れない。
「すごくいい状態ですね。呼吸も深くなってますよ。」
「ありがとうございます。なんか、心までスッキリした感じです。」
「体と心はつながっていますからね。
定期的に整えると、ストレスもたまりにくくなりますよ。」
ハーブティーを飲みながら、ふと窓の外を見る。
夜風がやさしくカーテンを揺らしていた。
「この時間が好きなんです。」
そうつぶやくと、セラピストが微笑んだ。
「体を整える時間は、自分を大切にする時間でもありますからね。」
自分のリズムを取り戻す
翌朝、目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めた。
体が軽く、背中も伸びている。
深呼吸をすると、胸の奥まで空気が入っていく。
カーテンを開けると、朝日がやわらかく差し込んだ。
「今日も頑張ろう。」
そう口に出したとき、気持ちがすっと前を向いた。
以前は、疲れた体をただ我慢していた。
でも今は、少し不調を感じたら整える。
頑張りすぎず、ちゃんと休む。
それが、自分にとっての“新しい生活リズム”になっていた。
整体を通して見えた“自分の変化”
出張整体を受けるようになって半年。
最初は「肩こりをなんとかしたい」という理由だった。
それが、今では「心も整える時間」になっている。
疲れをためない生活、姿勢を意識する習慣、そして深呼吸。
小さな積み重ねが、確かに自分を変えてくれた。
友達に「最近、姿勢きれいになったよね」と言われると、
少し照れくさいけれど嬉しい。
「整体に行ってるんだ」と話すと、
「それってどんな感じなの?」と興味を持たれることも増えた。
彩香は笑顔で答える。
「痛くないし、リラックスできるよ。
ただ体をほぐすだけじゃなくて、自分の心まで整う感じ。」
その言葉には、今の自分の実感がこもっていた。
まとめ
- メンテナンス整体は“治療”ではなく“整える時間”
- 呼吸と姿勢を意識することで、自律神経も安定する
- 体が整うと、心にも余裕が生まれる
- 定期的なケアが、自分を大切にする第一歩になる
出張整体を通して、彩香は体だけでなく、心のバランスも整える術を学んだ。
忙しい日々の中でも、ほんの少しの時間で“自分を取り戻す”。
その大切さを知った今、もう無理をしすぎることはない。
整えることは、前を向くための準備。
その穏やかな気づきが、彼女の新しい日常を支えていた。
