信頼が深まるたびに――出張アロマで見つけた、私だけの癒し時間

最初に彼に施術をお願いしたのは、もう三ヶ月前のこと。
きっかけは、友人が「本当に心が軽くなるよ」とすすめてくれた一言だった。
半信半疑で申し込んだ出張アロマだったけれど、
あの夜の心地よさが忘れられず、気づけば月に一度の習慣になっていた。

同じ人にお願いするという安心感。
それは、言葉以上に大きな意味を持っている。
玄関のチャイムが鳴り、落ち着いた声が聞こえるたびに、
「今日もこの時間を自分に贈ろう」という気持ちになる。

空気のように自然な存在感

最初に出会ったとき、彼の印象は「静かな人」だった。
余計なことを言わず、でも必要な言葉はきちんと届けてくれる。
そんな距離感が心地よかった。
話すよりも、手のひらで伝わるものがある。
それを感じたのは二回目の施術のとき。

背中にオイルが触れた瞬間、
「今日もここに戻ってきた」と思った。
香りも音も温度も、すべてが前回と同じなのに、
不思議と違う感覚があった。
彼の手が動くたび、
私の体の変化を正確に読み取っているような安心感があった。

その“わかってくれている”という気持ちが、
信頼へと変わっていった。

香りが記憶をつなぐ

「今日はどんな香りにしますか?」
施術前のカウンセリングでそう聞かれる。
前回はラベンダー、今回はベルガモット。
季節や気分によって選ぶ香りが違うだけで、
部屋の空気も、心のテンションも変わっていく。

ブレンドオイルを作る小さな瓶の音、
ふわりと漂う柑橘の香り。
その瞬間、仕事帰りの疲れや雑念が少しずつ遠のいていく。
香りは記憶を呼び覚ます力がある。
前回の夜、深く眠れたことや、
翌朝の目覚めの軽さまでも思い出させてくれる。

「香りって、時間の記憶を包んでくれるんですね」
思わずそう言うと、彼は少し笑って、
「そうなんです。だから、リピートしてくれる方は香りから整っていくんですよ」と答えた。

言葉よりも手が覚えている

三度目の施術では、ほとんど言葉を交わさなかった。
ただ静かに、音楽と香りに包まれながら、
手のぬくもりに身をゆだねていた。
彼の手が肩を押すと、呼吸が深くなる。
腕をなぞるように流れる圧が、
まるで日常の重さをそっと流してくれるようだった。

人の手には、記憶があると思う。
前回よりも少し疲れている場所、
力を抜きにくい部分。
言葉にしなくても、そこに気づいてくれる。
それが、長く続く信頼になる。

施術の終わりが、次の始まりに変わる

「お疲れさまでした」
その一言で、いつも現実に戻る。
でも不思議と、寂しさではなく安心感が残る。
終わりが“癒しの終点”ではなく、“自分を整える習慣の始まり”になっているからだ。

温かいお茶を飲みながら、
「また来月お願いします」と自然に口にする。
それはもう予約というより、
自分の中のリズムの一部になっている。

翌朝、香りが残る部屋で

翌朝の部屋には、まだほのかにオイルの香りが残っている。
窓から差し込む光とともに、
昨日の空気が少しだけ続いているような気がした。
鏡を見ると、顔のこわばりが消えていた。
体だけでなく、表情までも柔らかくなっている。

その瞬間、「またお願いしよう」と思った。
理由はうまく言葉にできない。
でも、“安心して心を預けられる人”がいるというだけで、
日常が少し軽くなる。

信頼を育てる時間

四回目の予約を入れた時、
彼は「今月は疲れがたまっていると思います」と笑って言った。
たしかに、その通りだった。
自分では気づかない変化を、誰かが見てくれている。
それがどれほど救いになるか、改めて感じた。

体を整えることは、心を整えること。
香りと温もりがその橋渡しをしてくれる。
彼の手が肩に触れるたび、
「またここに戻ってこれた」という安心が生まれる。

最後に――心が求める“場所”として

出張アロマを続けていくうちに気づいた。
それは、特別な贅沢ではなく“日常の延長にある癒し”だということ。
誰かに委ねることで、自分を取り戻す。
そしてまた、頑張ろうと思える。
そんな小さな循環が、毎日の支えになっている。

今日もまた、香りの瓶を開ける。
柑橘の明るい香りが、心の奥をやさしく満たしていく。
出張アロマは“サービス”ではなく、
私にとっては“心を整える習慣”。
そして、あの手の温もりがある限り、
この癒しは、これからも続いていく。

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